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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)282号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 取消事由についての判断

1 当事者間に争いのない本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(特公昭六〇―四七〇六六号特許公報・本願公報 以下「本願明細書」という。)によれば、本願発明は、その特許請求の範囲に記載されたとおり上下ラツプ板、キヤリヤー、中心ギヤー及びインターナルギヤーのそれぞれに対して回転数を自在に制御できる各別の駆動源を設けるとともに、これらの駆動源を集中制御することによつてこれら各部材の回転比を自在に制御できるようにして、すべてのワークに最適なラツプ条件を整えることができるような四方向ラツプ盤を得ようとしたものと認められる。ところで、成立に争いのない甲第六号証の二(一九八七年一月二〇日理工学社発行「よくわかる仕上げ作業」一〇―一頁一五行ないし一〇―四頁六行)、乙第一号証の四(昭和四〇年六月三〇日日刊工業新聞社発行「砥粒加工技術便覧」五〇一頁八行ないし一六行)、乙第二号証(昭和四九年六月二二日公告に係る昭四九―二三三五二号実用新案公報)、乙第三号証(昭和三三年一〇月二五日共立出版株式会社発行「精密仕上法」六六頁三行ないし六八頁二〇行)を総合すると、「ラツピング」の概念は、平面ホーニングもしくは平面超仕上げに近い意義にも理解されていることから、「ラツプ盤」の用語は、<1>上下定盤(本願発明の上下ラツプ板)とワークとの間に介在させた砥粒の作用により定盤の平面度をワークに転写する構成の装置のほか、<2>定盤の上に置かれた研磨パツトの表面に遊離砥粒を散在させ、この研磨パツトにワーク(被加工物)をおしつけながら、両者に相互運動を与えることにより加工を行う装置と、<3>いわゆるラツプ砥石を使用し、ラツプ砥石にワークをおしつけながら、両者に相対運動を与えることにより加工を行う装置(砥石ラツピング)をも含むものと認識されていることが認められる。一般に、「ラツプ盤」なる用語は、上下定盤と被研磨物体(ワーク)は直接接触することなく、その間に砥粒層が介在し位置を拘束されない各砥粒の切羽による研削とそのコロガリによる研削の二つの作用によつて、定盤の平面度をワークに転写させる構成の装置のみを指すものと認識されていたとの原告の主張は採用できない。そして、本願明細書全体の記載を検討してみても、その特許請求の範囲には、ラツプ板の構成を限定する格別の記載はなく、また発明の詳細な説明欄における作用効果に関する記載も、前記<1>の構成のほか、<2><3>の構成のラツプ盤についても共通するものであるから、これらの構成のラツプ盤が本願発明から除外されると認めるべき根拠とはなり得ない。したがつて、本願発明に係る四方向ラツプ盤は砥粒の位置が拘束されない間接研磨方式による構成の装置のみに限定されるものではない。

2 取消事由1について

(一) 第一引用例に審決認定のとおりの記載があることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証(特開昭四八―七九三九〇号公開公報・第一引用例)によれば、第一引用例に開示された平面研磨装置は、水平に回動する上下の研磨盤と該上下研磨板の間を水平に回動するキヤリヤと該キヤリヤを駆動させる太陽歯車と大径内歯歯車とから成る構成のものであり、上下方の研磨盤(研磨定盤14、17)の上面及び下面に固着されたポリウレタンなどの研磨パツトに遊離砥粒を散布し、この研磨パツトにワークをおしつけながら、両者の相対運動によつてワークの両面を同時に研磨加工する構成のものであることが認められるところ、右の構成に徴すれば、この第一引用例に開示された平面研磨装置が前記<2>のタイプに属する四方向ラツプ盤と認めることができ、かつ、これが本願発明に属する一態様の四方向ラツプ盤であること(具体的な構成の点をのぞいて)は、前記説示したところから明らかである。したがつて、審決が、本願発明と第一引用例に記載された発明との対比判断をするに当たり、第一引用例の平面研磨装置を本願発明に含まれるところの「四方向ラツプ盤」と認定判断したことには、何ら誤りはない。第一引用例の平面研磨装置は本願発明が対象とするラツプ盤とは異なる研磨装置であるとする原告の主張は理由がない。

(二) また、本願明細書の発明の詳細な説明欄には、適正なラツプ条件を得るためには、上下ラツプ板相互及びラツプ板とキヤリヤーとの回転数及び回転比を全体的に調整することが必要である旨の記載に続いて、「ラツプ作業中にラツプ板を増速運転させたり……する場合も同様である。」(四欄三二行ないし三三行)との記載があり、また「本願発明は多種のワークに対し常に適切なラツプ条件を設定できるとともにラツプ作業中においてもラツプ程度に応じて自在にラツプ条件を変更できる」(四欄四〇行ないし四三行)との記載のあることが認められるが、本願発明の特許請求の範囲には、「上下ラツプ板、中心ギヤー、インターナルギヤーを夫々の回転数を自在に制御し得るようにした各別の駆動源により駆動させるとともに、各駆動源を集中制御して夫々の回転比を自在に変更制御する」と記載されているだけであるから、本願発明は、回転軸の回転数及び回転比を変更制御すべき時期については特に規定されたものではなく、これがラツプ作業中にのみ行われるとの限定を付したものとは認められない。

他方、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の平面研磨装置についても、「各回転軸(3)(4)(5)(6)をそれぞれ適宜の回転数で回転させると、キヤリヤ(32)は回転する上下の研磨板(14)(17)間において太陽歯車(16)大径内歯歯車(12)によつて自転しつつ公転する。」(二頁下段左欄一三行ないし一八行)との記載や「実施にあたつては各回転軸(3)(4)(5)(6)の回転数比を適宜選択して回転駆動するとともに、太陽歯車(16)大径内歯歯車(12)キヤリヤー(32)からなる遊星歯車列の歯数比を適宜設定することによつてホルダー(35)の軌跡を決定する。」(二頁下段右欄一三行ないし一八行)との記載のあることが認められるから、右の回転数比を適宜選択すべき時期についての明確な記載がないにしても、少なくともラツプ作業の開始に当たつて各回転軸の回転数及び回転比を適宜選択し得る構成であることは明白である。そうすると、第一引用例の平面研磨装置も、回転軸の回転数及び回転比を変更制御すべき時期に格別の限定があるものとは認められない本願発明に係る装置と実質上同一の構成を有するものというべきである。

(三) 右のとおりであるから、本願発明と第一引用例記載の発明とは、四方向ラツプ盤の上下ラツプ板、中心ギヤー及びインターナルギヤーのそれぞれの回転数及びそれらの回転比について自在に変更可能とした点で一致し、具体的な構成において相違するにすぎないとした審決の認定判断には何ら誤りはなく、この点の原告の主張は採用できない。

3 取消事由2について

第二引用例に審決認定のとおりの記載のあることは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第四号証(米国特許第二、七〇九、八七六号明細書)によれば、第二引用例は、名称を「ラツピングマシン」とする研磨装置に係る明細書であるが、そこに開示された装置は、平面ラツピングホイール(16、98)を用いてワークケージ(47)内のワークの平面加工を行うものであるから、第二引用例に開示されたラツピングマシンは、前記<3>の砥石ラツピング装置と認められる。また、上下ラツピングホイールとワークケージの駆動によつて研磨加工を行うものであることが認められるところ、第二引用例の装置は、本願発明や第一引用例の平面研磨装置のようにキヤリヤーが中心ギヤーとインターナルギヤーの駆動により遊星運動をする方式の装置ではないにしても、前記説示したとおりラツプ盤として認識される研磨装置であることに変わりはなく、かつ、第二引用例には、「上下ラツプ板及びワークケージの駆動を、それぞれの回転数を自在に変更し得るようにした各別の駆動源により行うとともに各駆動源を制御してそれらの回転比を自在に変更し得るようにした」構成が開示され示唆されている(このことは当事者間に争いない。)のであるから、第一引用例記載のラツプ盤に対して、第二引用例に開示されている右の技術手段を適用することは当業者の容易に想到し得ることと認められる。この点について、原告は、第一引用例及び第二引用例に記載された装置がいずれもラツプ盤とみられるものでないこと及び第二引用例の装置におけるワークケージと遊星方式のキヤリヤーとの違いを根拠として第二引用例の技術を第一引用例の平面研磨装置に適用することの困難性を主張するが、第一引用例及び第二引用例の装置がいずれもラツプ盤といわれる平面研磨装置であることはすでに説示したとおりであり、また、第二引用例の装置においてはキヤリヤーに相当するものがなく、リングギヤーによつて駆動されるワークケージがあるだけであるが、駆動機構の点についてみれば、第二引用例には、一類型のラツプ盤の技術として各回転軸の駆動を各別の駆動源により行うという構成が十分示唆されているのであるから、駆動される部材及び回転軸数の違いは第二引用例の適用を格別困難にするものとは考えられない。したがつて、この点の原告の主張は採用の限りでない。

4 更に、成立に争いのない甲第五号証(昭和四二年一月二五日電気学会発行「電気工学ハンドブツク」一四三六頁)によれば、第二引用例にみられるように各回転軸を各別の駆動源によつて駆動制御する場合において各駆動源を集中制御盤をもつて集中制御することは電気技術の分野における慣用手段であると認められるから、結局、本願発明と第一引用例との相違点である具体的な構成の違いの点も、第二引用例記載の技術と慣用手段から当業者が容易に想到し得ることということができ、本願発明の作用効果をみても、第二引用例及び右の慣用手段の範囲を超えるものとも認められない。

5 右のとおりであるから、本願発明は、第一引用例及び第二引用例に記載された発明並びに前記慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の認定判断は正当であり、審決には、原告主張のような違法の点はない。

三 以上のとおりであるから、審決に認定判断を誤つた違法があることを理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

水平に回動する上下ラツプ板と該上下ラツプ板の間を水平に回動するキヤリヤーと該キヤリヤーを駆動させる中心ギヤーとインターナルギヤーとから成る四方向ラツプ盤において、上下ラツプ板、中心ギヤー、インターナルギヤーを夫々の回転数を自在に制御し得るようにした各別の駆動源により駆動させるとともに、各駆動源を集中制御して夫々の回転比を自在に変更制御する集中制御盤を具えたことを特徴とする四方向ラツプ盤。(別紙図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

図面(二)

<省略>

(以下省略)

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